ストーリーのある、チャイと紅茶の専門店(Vol.1)
CafeSnap発案者の大井がお話をお伺いしているプレミアムコラム。第24回目にお迎えするのは吉祥寺にあるchai breakのオーナー水野学さんです。
chai breakを“ストーリーのある店”と語る水野さん。チャイや紅茶のこだわり、ある老舗喫茶店の跡地を引き続くことなったドラマティックな出会い、そして紅茶の基礎知識なども伺いました。
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水野 学さん
chai breakオーナー。勤めていた紅茶店の茶葉の買い付けに同行し始めたことで、2001年“ティーブレイク”を立ち上げ、紅茶の輸入販売をスタート。通信販売や卸しをする中で、「紅茶をもっと多くの人に日常的に楽しんでもらいたい」という想いから、2009年chai breakをオープン。2015年からは産地や作り手が見える紅茶を集めた“シングルオリジンティーフェスティバル”を同業3社と企画し、年に一度開催している。
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- 紅茶をもっとカジュアルに楽しむためにチャイを提案
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- 大井
- 今日はよろしくお願いします。まずは、chai breakを作られたきっかけから教えていただけますか?
- 水野さん
- 一般的に、紅茶は何となく敷居が高いイメージが強いと思うんですね。例えば、茶葉を差し上げると「こんなにいい紅茶はもったいないからお客様が来たときに取っておこう」とか「私に美味しく淹れられるかしら」と言われることが多くありました。
紅茶を大事にしてもらえるのは嬉しいのですが、美味しい紅茶こそ新鮮なうちに飲まないともったいないですし、そもそも紅茶はそんなに難しいものではなく、茶葉にお湯を注いで蒸らすだけで簡単にその美味しさを味わえます。こんなに美味しい紅茶がたくさんあるのだから、「もっと日常的に、カジュアルに紅茶を飲んでほしい」そう常々思っていました。
一方、仕入れで訪れることの多いインドでは、チャイは地位と関係なくあらゆる人々に毎日飲まれています。毎日の暮らしに欠かせない日常的なものとして紅茶が根付いているんですね。そこで、今までの紅茶にあった「高貴なイメージ」に囚われない身近なものとして “チャイ” を提案したいと考えました。チャイが持っているカジュアルなイメージから、紅茶をアピールしたいと考えたのです。
- 大井
- chai breakのチャイのこだわりを教えていただけますか?
- 水野さん
- 紅茶の味をしっかりと出すために茶葉をたっぷり使って深みのある味にしていることですね。当店の場合、ティーポットで紅茶を作る時に使う茶葉の量は、1ポットにつき4~5gくらいですが、チャイはカップ一杯につき8gの茶葉を使っています。つまりポット2杯分、ティーカップにすると7~8杯分の茶葉を使って1杯のチャイを作っているんです。それくらい贅沢に使えるのは、自分で茶葉を輸入していないとできないと思うので、それが一番の特徴ですね。
それから作り方も茶葉を水から煮出して、紅茶の濃いエキスを十分出してから、ミルクを加えて煮立たせています。みなさん濃厚なチャイを作ろうとすると牛乳だけで煮立たせて作るという方が多いようですが、チャイの濃さは紅茶の濃さで作られているんです。
またチャイというと、多くの方が「スパイスが入ったミルクティー」を想像しますが、インドではチャイにスパイスが入っていないことの方が多いんです。なので、メニューもインドで親しまれているプレーンなチャイをベーシックなものとしてお出ししています。そのほかにスパイスや季節の素材を使ってアレンジしたホット・アイスのチャイ、あわせて常時17~18種類を取り揃えています。
- 大井
- チャイはどんな国で飲まれているのですか。
- 水野さん
- チャイは世界中、様々なスタイルで飲まれています。うちはチャイをインドスタイルの煮出したミルクティーとしてお出ししていますが、国によってはミルクを使わないチャイもあったりします。それは、チャイ=ミルクティーという意味の言葉ではないからです。
- 大井
- そうなんですか!
- 水野さん
- “チャイ”は元々、中国の“チャ”から派生した言葉で、中国では“チャ”と言ったり“テ”と言ったり、地方によって方言があります。“チャ”は陸路で伝わってきた言葉で、インドではそれがなまって“チャイ”になったそうです。“テ”というのは海路で伝わった地域の言葉。なのでスリランカは“テ”。イギリスは“ティー”と呼んでいますね。
チャイがどんな国で飲まれているかというと、その土地その土地でそこに住んでいる人たちが馴染みのある飲み方を“チャイ” “チャ” “テ” “ティー”と呼んでいるので、世界中で飲まれている、それが正確な答えだと思います。
- 大井
- なるほど、面白いですね。
- 紅茶の素材、季節、作り手を大切に
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- 大井
- では、次にchai breakについて教えていただけますか?
- 水野さん
- chai breakは、“素材、季節、作り手”の3つを大事にする店でありたいと思っています。「紅茶ってこんなに美味しいんだ」ということをまずは知ってほしいので、素材そのものの味を大切に、産地や季節の特徴がよく表れている紅茶を扱っています。うちで扱っている紅茶はフレーバーを足すことも、ブレンドもしていなくて、作った人の想いや目指すものが表現された紅茶です。一般的に紅茶は工業製品的なイメージが強いと思うのですが、「紅茶はどこで飲んでも同じ」「どれを飲んでも同じ」ではなく、紅茶は元々畑から作られるもので、ひとつひとつ作り手がいるということをお伝えしたいと思っています。
それから紅茶には産地ごとに“旬”があります。紅茶で季節を感じるという感覚はあまり一般的ではないかもしれませんが、当店では苺やリンゴ、桃、栗、キンモクセイなど、季節の素材を使ってチャイを作っていて、こうした素材から“旬”を楽しんでいただくのと同時に、この店と紅茶で季節を感じていただきたいと考えています。
フードも季節感、そして自家製にこだわっています。先ほども言ったように、紅茶はポットに茶葉とお湯を入れて蒸らすだけでとても美味しくなります。フードについても同じことが言えると思うんです。いい素材を使って、ちょっとひと手間をかけるだけでこんなに美味しくなる……そんなことをお伝えしたいと考えています。
- 大井
- フードメニューには、焼きりんごとカスタードソースのフレンチトーストや、和栗のフレンチトーストなどがありますよね。スイーツメニューとしてフレンチトーストを選ばれたのはなぜですか?
- 水野さん
- フレンチトーストに限らず、マフィンでも他のメニューでも、メニューは基本的に自分で「こんなメニューがあったらいいな」と思ったもの、そしてお客様に食べて頂きたいものをお出ししています。紅茶とフードのペアリングなどを考えるのも一つの楽しみ方ですが、個人的には食べたい時に食べたいものを、飲みたい時に飲みたいものを飲むのが一番だと思っています。僕はフレンチトーストを食べたときに無性に紅茶が飲みたくなったので、その感覚は大事にしたほうがいいのかなと思いました。
それから、紅茶をカジュアルに楽しんで頂きたいので、一緒にお出しするフードもみんなが馴染みのあるものにしたいと思っていました。フレンチトーストは、身近な食べものですが、きちんと素材を選んで丁寧な手順で作ったら「こんなに美味しくなる」ということも伝えられると思いました。
- 大井
- 栗やリンゴ、イチゴなど、季節の食材はどのように選ばれているのでしょうか?
- 水野さん
- “季節を感じる”ということは、“その地域を感じる”ということでもあるので、うちではできるだけ三鷹の農家さんで作っている食材を使わせてもらっています。三鷹市では市内の農家さんで収穫のお手伝いや草むしりなどを手伝わせてもらえる“援農”というシステムがあって、この店を始める前に一年間ほど通っていました。三鷹は都内でも農業が盛んなところですし、地元の農家さんの食材を使うことで、農業や作り手について伝えられたらという想いがあります。
- 大井
- “援農”というシステムがあるんですね。水野さんが農業のお手伝いをしようと思われたのはなぜですか?
- 水野さん
- 茶葉を仕入れるのもそうですが、やはり「作られている現場を見ないと」という想いがどこかにあるんでしょうかね。紅茶は、どんな人がどんな想いで、どんな考え方で、どんな風に農園を運営しているのかが味に如実に出てきます。できるだけ現地の情報や、誰が作っているかを知ることは大事なことなので、農業の現場も見たいと思いました。そういった現場の情報はお客様にも伝えてきたいですね。
- この続きはVol.2の「有名老舗喫茶からchai breakが引き継いだもの」で!次回の公開は1月20日(金)です!どうぞお楽しみに!
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