丸山珈琲のはじまりと当時のコーヒー文化(Vol.2)
丸山珈琲の丸山健太郎さんにお話を伺っているプレミアムコラム、Vol.2は丸山珈琲の始まりについて。1990年に軽井沢で最初にオープンされた喫茶店のこと、10年をかけて追求した焙煎、そして当時のコーヒー文化についても伺いました。
-
- はじまりはインドカレーとコーヒーのある喫茶店
-
- 大井
- 現在、丸山珈琲はスペシャルティコーヒー専門店として有名ですが、1990年に最初のお店を出された時は、インドカレーと手網で焙煎したコーヒーを出される喫茶店だったそうですね。まず、インドカレーが気になってしまったのですが……!
- 丸山さん
- 私はかなり変わった子どもで……(笑)。幼い頃からずっとインドに行きたくて、高校に進学した頃には「中退してもいいから早くインドに行きたい!」と思っていました。
結局、高校は卒業しましたが、学生時代からビル清掃のアルバイトをして、お金を貯めてはインドを放浪……。そんなことを21歳ぐらいまで続けていたんです。別にインドにカレーの勉強に行っていたわけじゃないですよ!(笑)結果的にインドカレーをたくさん食べていたので、作り方を覚えていたんです。
- 大井
- そうだったんですね(笑)インドは紅茶のイメージがありますが、丸山さんは昔からコーヒーがお好きだったんですか?
- 丸山さん
- いえ!当時はお茶の方が好きでした。コーヒーは刺激物という印象があって好きではなかったですね。
- 大井
- そうなんですか!
- 丸山さん
- だから、最初に軽井沢で開いた店はコーヒーにこだわった店というより、マンガが好きだったんで、マンガの置いてある普通の喫茶店をやりたかったんです。結局、お店の雰囲気にあわずにマンガは断念しましたけど……。
最初の開いた店は「エイコーン」という屋号で、1990年に一夏だけ。妻の実家でもともとペンションのダイニングだった場所を借りました。この期間中に“焙煎”というものを知ってからは、もう止まらなくなりましたね。手網や中華鍋など、色々なもので焙煎を試しました。次の店は1991年の4月から。「丸山珈琲」の名前で本格的に珈琲専門店を始めたんです。
1993年には焙煎をもっと追求したいと思い、店舗を閉めて無店舗で豆の販売配達だけをしていた時期もあります。その後1995年の夏に、最初に店を開いたペンションに戻って丸山珈琲 軽井沢本店をスタートしました。
- “味を作る”という、日本独自の焙煎技術
-
- 大井
- 焙煎はどのように研究されていったのでしょうか?
- 丸山さん
- 当時はスペシャルティコーヒーの概念がなかったですし、味のことを教えてくれる人もいませんでした。だから有名な店、例えばランブルさん、バッハさん、今はなき吉祥寺のもかさん、大坊珈琲店さん、それから自分の師匠のコーヒーを飲みに行っては“味を覚える”というのが勉強方法でした。それから「こういうことかな……」と考えて自分で焙煎してみる。その繰り返しでした。
焙煎は伝統工芸に似ていて、“職人として一生かけて追求していくもの”。それが僕は「いいな」と思っていました。だから当時、いや、今でもそうかもしれませんが、有名な店の焙煎士さんたちは神様のような存在でしたよ。
- 大井
- 神様達のどのようなところを尊敬されていたんでしょうか?
- 丸山さん
- 焙煎の仕方、焙煎のスタイルが独特でしたね。当時はみなさん深煎りのコーヒーを追求していて、焙煎の技術によってコーヒーから甘みを引き出していたんです。
- 大井
- 元々の素材がそんなに甘くなくても、甘みを作る技術があったということですか。
- 丸山さん
- はい。その技術は今も存在しています。最近では“素材の味を引き出す”焙煎が増えてきていますが、“味を作る”という焙煎技術は日本独自のもので、外国のコーヒーにはありません。そういう意味で日本の焙煎は無形文化財だと思います。
- コーヒーは、作り手の“哲学”であり“純文学”
-
- 大井
- 当時と今で、コーヒー屋さんのどんなところに違いを感じますか?
- 丸山さん
- 昔、自家焙煎のコーヒー店はすごく閉ざされた世界でした。例えば焙煎士でいえば、現代のように情報を共有することはなく、焙煎士それぞれが切磋琢磨する時代だったと思います。
コ-ヒーはその人の哲学、純文学みたいなもので、あの頃「あなたのコーヒーはこうだよね」というように「僕のコーヒーは」「あの人のコーヒーは」という言い方をしていたんです。文筆家に対して「あの人の作品は」というのと同じで、“人となりが結集しているもの”がコーヒーでした。
それから、お店の中でもお客さんが店主に気軽に話しかけられるような雰囲気はなかった。お客さんは何度も店に通って店主に認められて声をかけてもらえるようになる……、そういう世界でしたね。
- 大井
- 今とは全く違って、かなり限られた人達の世界だったんですね……。
- この続きは、VOl.3の「スペシャルティコーヒー・第一世代が知った感動と葛藤」で!次回は、3月10日(金)更新です。どうぞお楽しみに!
Photo by Hidehiro Yamada
注目トピックス
新着の投稿
新着まとめ
地域を選択する