バリスタトレーナーとしてのやりがいと責任(Vol.2)
「バリスタを育てることで、コーヒーを楽しむ人を増やしたい」と語る、ブルーボトルコーヒーのトレーナー、藤岡響さんにお話を伺っているプレミアムコラム。Vol.2では藤岡さんがトレーナーとして大事にしていること、やりがいや苦労をお伺いしました。
またブルーボトルコーヒーの中で、バリスタ向けに開かれているセミナーや日米のバリスタが参加して開かれるラテアート大会やカップテイスターズについても教えていただきました!
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- バリスタを育てることで、コーヒーを楽しむ人を増やしたい
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- 大井
- 藤岡さんがブルーボトルコーヒー(以下、ブルーボトル)のトレーナーになれたきっかけをお伺いしたいのですが、以前に働いていたお店からブルーボトルに転職されたのはなぜですか?
- 藤岡さん
- 以前、働いていたお店の母体はアパレルや音楽もやっていました。表参道のオシャレな店ではあったんですが、最初のうちはコーヒーを目当てに来るお客さんがなかなか増えていかなかったんですね。自分が納得して美味しいコーヒーを提供したとしても、楽しんでくれるお客さんが増えていかないということは、「今後バリスタという職業が厳しいものになるな」と感じていました。
ブルーボトルが上陸すると聞いて初めて思ったのが、「コーヒーをしっかりと提供できる環境で、まずはコーヒーを楽しむ人を増やして、コーヒー自体を日本に根付かせたい。その結果、僕がやっているバリスタという職業を少しでも多くの人に知ってもらい、バリスタを社会の中で成り立つ仕事にしていきたい」ということでした。
あくまで僕自身の体験ですが、飲食店では通常、アルバイトからスタートして社員になっても、労働時間が長く、休みも取りづらかったり、給料もそれほど高くはないことが多くて、働き続けるには大変な環境が多いように思います。だからこそ、僕はバリスタを“長く続く仕事にしていきたいな”と思ったんです。ブルーボトルでは、継続してバリスタが働ける環境が整っていて、何よりもバリスタという仕事への理解が深い。そういった“バリスタという仕事への理解”が日本にも浸透していくといいなと思いました。
バリスタという職業が成り立って、バリスタを目指す人たちがもっと増えれば、日本全体のコーヒーのレベルも上がるはずですし、店舗のクオリティも上がる。そうすれば、コーヒーを楽しむ人口も増えてくる。そのきっかけになるようなことをやりたいという想いが強かったのでブルーボトルでチャレンジしようと思いました。僕に続く後輩のバリスタがたくさんいるので、“バリスタを育てることで、コーヒーを楽しむ人を増やす”という責任を僕が負いたいと思いました。
- 大井
- 素晴らしいですね。バリスタとしての様々な経験をされている藤岡さんだからできるアプローチですね。実際、新しいバリスタがどんどん入ってきて育っていますよね。
- 藤岡さん
- お客さんで来てくれていた子が今はバリスタとして活躍していたりもするので、それはすごく嬉しいですね。
- トレーナーとしてのやりがいと苦労
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- 大井
- 藤岡さんにとって、トレーナーとしての“やりがい”と“苦労”を教えていただけますか?
- 藤岡さん
- やりがいは教えたバリスタが徐々に成長して、コーヒーを淹れるだけでなく、新しいバリスタに教えるようになった時、そういう成長を知った時が嬉しいですね。
例えば、なにかうまくいかない場合は、知識の問題なのか、技術的な問題なのか、マインドの問題なのか……そのバリスタにとってハードルになっているものが何かを的確に探していくことが非常に難しいですね。難しいと感じるところや、つまづくポイントはみんな違いますので。
- 大井
- トレーナーとして、バリスタにアドバイスをする機会もあると思いますが、藤岡さんはどのように伝えていますか?
- 藤岡さん
- フィ-ドバックについてはタイミング、特にフィードバックを受ける側の状況をしっかり考えないといけないなと思いますね。「今、大丈夫?」でもいいですし。少しコミュニケーションをして、状況を整えてからしっかりと伝えていく必要がありますね。
それから伝え方ですよね。「それがいけない」だけだと否定されているように感じて、あまりよくは思わないですよね。「なぜそれをしてはいけないのか」の理由をしっかり説明した上で「ここをこうしたら良くなるよ」と伝えるようにしています。
あとは、ネガティブなポイントだけを伝えるのではなくて、いいポイントも絶対あるので、そこはしっかり褒めて伸ばす。ポジティブに理解してもらえるような伝え方を心がけています。
- 圧倒的な経験値から“成長につながるポイント”をアドバイス
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- 大井
- 藤岡さんがトレーナーとして大事にしていることはどんなことでしょうか?
- 藤岡さん
- たくさんあるんですが、まずは“バリスタという仕事を理解してもらえるように伝えること”でしょうか。バリスタは “コーヒーを作るだけの仕事ではなくて、しっかりと伝える仕事”というのを伝えることですね。
それからバリスタに、それぞれのタイミングで成長するために必要なことを気づかせてあげることでしょうか。バリスタは華やかなイメージがすごく強いと思うんですが、それはほんの一部。あとは繰り返しが続く、職人です。同じクオリティのコーヒーを一貫して、繰り返し作るのが仕事なので、ものすごく地味なんですよね。
僕が他のバリスタよりも優っている点をあげるなら、苦労の数だと思うんですね。最近では、海外のコーヒー文化に触れた事でバリスタになりたいという人が多いですが、僕は日本でしかバリスタをしていない。アルバイトから始めて、働いてきた経験がありますし、コーヒー業界の発展とともに成長してきた“たたきあげ”のような存在です。
色んな過程で試行錯誤して、気づけたことが僕自身の成長に繋がっているので、それぞれのバリスタに、“成長につながるポイント”を気づかせてあげることが大事なんじゃないかなと思います。
- バリスタ向けのセミナーや日米合同のラテアート大会を開催
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- 大井
- 厳しいバリスタという仕事を続けていくという点では、モチベーションをどのように上げるのか、維持するのかも大事なところですよね。ブルーボトルの中でなにか制度はあったりするのでしょうか?
- 藤岡さん
- カッピングや、様々な抽出器具を使った飲み比べ、少しマニアックな技術や知識を考えたり体験してもらえるようなバリスタ向けのセミナーを毎月行うようにしています。
例えば最近だと、クオリティマネージャーのケビンさんが、スマトラに行ってきたので産地の様子を伝えてもらったり、その前はリードバリスタが同じコーヒーをいくつかの抽出器具で淹れて、味がどう違うのかをプレゼンしたり。店舗では体験できない深い知識を社内で学べるような環境があります。
他にも、ブルーボトルはコーヒーだけじゃなくて、ペイストリーなどを作るキッチンスタッフもいます。中には元々シェフだった人もいるので、マニアックなところでいうと以前に塩の勉強会をやったりしていましたね。精製違いの塩をおにぎりと一緒食べ比べするという内容でした。
- 大井
- 面白いですね!ブルーボトル内で、大会もあると聞きましたが……
- 藤岡さん
- はい。今年行ったのはカップテイスターズ。1問につき、3つのカップを用意して、その中に1つだけ入っている別のコーヒーをカッピングしながら当てる競技です。
それからラテアート大会もあって、上位2名が来年の1月にアメリカで行われるブルーボトル内の日米大会に出場します。日本で働きながらアメリカに行ける機会も多いので、そういったことはモチベーションに繋がるんじゃないかと思います。
- 大井
- 藤岡さんがトレーナーとしてみんなのモチベーションを上げるためにされていることはありますか?
- 藤岡さん
- モチベーションアップに繋がっているかはわかりませんが、できるだけ店舗で新しいバリスタと一緒に働いて、しっかりとフィードバックを行うようにしています。店舗に入ると僕はドリップもエスプレッソも、ミルク系も全て飲むんですね。淹れてもらったコーヒーが美味しかったらしっかり褒めますね。
- 大井
- バリスタのみなさんからすると藤岡さんは一番の先生だと思うので、一緒に働いてフィードバックや褒め言葉をもらえたら嬉しいですよね。
- 藤岡さん
- 最近は新店のオープンが多かったので、トレーニングが忙しくてなかなか店舗に立てる機会がなかったんですが、これからは店舗で実際にバリスタの働き方を見て、大事ことをもっと伝えていきたいですね。
- この続きは、Vol.3の「“コーヒー界のアップル”から“ホスピタリティのブルーボトル”へ」(https://cafesnap.me/talk/162)で!次回の公開は12月27日(火)です。どうぞお楽しみに!
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