プレミアムコラム

コーヒーフェスティバルの先駆けと今(Vol.5)

グラウベルコーヒーの狩野さんと、編集・ライターの藤原さんにお話をお伺いしているプレミアムコラムVol.5。最終回は東京の3大コーヒーフェスティバルの特徴と、コーヒーフェスの先駆けとなった職人たちの“ある取り組み”やイベントについておふたりに聞きました。

職人たちの情報共有がその第一歩
大井
コーヒーフェスティバルが増え始めたのは去年からだと思うんですが、それまでにフェスティバルをやろうという流れはなかったんでしょうか?
狩野さん
そうですね。店主や焙煎士が集まる機会というのはなかったですね。私自身、焙煎は独学ですし、焙煎士はみんな自分の情報や技術を門外不出というか秘密にしていて「簡単に聞けない」そういう時代でした。

私がカッピングセミナーに参加し始めた2007年頃、アメリカでは焙煎だと“ロースターズギルド”という焙煎仲間が集まって情報共有する会が開かれていて、「日本もそうなればいいなぁ」と思っていました。

そうしたら、2009年に丸山珈琲の丸山さんやスペシャルティコーヒー協会が“ローストマスターズリトリート”という日本全国で50人ほどの焙煎人を集めて、そこから9人ずつくらいのチームに分け、課題豆の焙煎を競う会を開かれたんです。私も初めて参加させていただいたのですが、それが楽しかったこと!焙煎の仕方やアプローチ、考え方が全くみんな違っていて。焙煎は同じようにやっていても同じようにできないので、みんな包み隠さずに出すんですよね。日本全国の焙煎人とそこで友達になれたことは、本当にワクワクするような体験でした

そういうのを嫌がる方やコンペティション(競争)を嫌う方もいらっしゃるかもしれないけれど、それをやることによって、バリスタチャンピオンシップやラテアートチャンピオンシップなど他のコンペティションへ広がっていったんですね。みんなで集まってワイワイガヤガヤ楽しく、「あの人はこうやってやるんだ」と知る機会ができて全体的にレベルアップする、その流れがすごく出てきました。それは2009年くらいからより一層出てきたように思います。
大井
以前に伺った話で、大坊珈琲店の大坊さんや、京都のKAFE工船のオオヤミノルさんなど有名なネルドリップの職人たちが集まったイベントがあったと聞いたのですが……。
狩野さん
一昨年ですかね、オープンしたばかりの渋谷・ヒカリエで、日本全国のネルドリップの方々5人が集まったワークショップがありましたね。
大井
2年前から、プロや職人の方たちの間でイベントが徐々に開かれるようになって、そこからだんだん一般の方に降りてきているのかなと思います。
最近の3大コーヒーフェスティバルの特徴
大井
ここで、昨年から開かれているコーヒーフェスティバルについて簡単に説明させていただきます。大きくはCoffee Collection、Tokyo Coffee Festival、池尻大橋コーヒータウンフェスの3つのフェスティバルがあると思います。

まず、神保町で4月に開催したCoffee Collectionは“世界最高峰のコーヒーが集まる”というコンセプトのもと、コーヒーに特化したフェスティバルでした。GLITCH COFFEE&ROASTERSの鈴木清和さんがコーヒーの監修者として入っていらっしゃいますし、参加店舗のラインアップをみると、オセアニアや北欧など世界を意識した浅煎りのコーヒー店が多かったように思います。

また、先週末に青山で行われたTokyo Coffee Festival。こちらは、コーヒー店が約30店とチョコレートやカレー屋さんなどフード関係も充実していました。全国のコーヒー店が参加していることが特徴で、今回でいえば、昨年のバリスタチャンピオンシップで優勝された福岡のREC COFFEE、熊本のAnd Coffee Roastersも出店されていました。私は来ていた方に取材をしたのですが「コーヒーのことはわからないけど楽しそうなフェスなので来ました」と、まさにお祭り感覚で参加されている方も多くいらっしゃいましたね。

さらにもうひとつが3月に行われた池尻大橋コーヒータウンフェスティバル。こちらは、急に出てきたコーヒータウンと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は昨年くらいからInstagramの「#池尻大橋コーヒータウン」というハッシュタグをつけて、参加する7店が写真投をしていたんですね。私が池尻大橋のカフェの方とお話していたときに「コーヒーを通してこの街を盛り上げていきたい」という話を伺いまして、インスタを見てみると1500件以上、ハッシュタグをつけて投稿されていたので、「これは清澄白河のように次のコーヒータウンになりうる場所だな」と思って記事にさせて頂いたんです。

フェスのときは、メイン会場となる“The Workers”さんに各店の方々が小さいブースを設けてお店の紹介やグッズの販売をしつつ、だいたい1キロ圏内にあるお店をスタンプラリーでまわってもらって街を楽しんでもらうという設計になっていました。
大井
狩野さんと藤原さんは、先週の東京コーヒーフェスティバルに初めて参加されたということでしたが、いかがでしたか?
藤原さん
想像以上に活気があって、なによりお店の人たちがお店では普段見せない表情っていうんですかね、なんか解放されてる感じで。いつもに増して会話がはずんでいるように思いました。フェスティバルが持っている楽しい雰囲気や、同業者が隣にいることの刺激、そして新たな繋がり。そういうのが相関されて、すごく楽しいイベントになっていると思いました。

来ている方は若くて、飲み比べチケットを持っている人が多かったですよね。やはり一軒一軒、交通機関を使ってお店に行くのと違って、一つの場所で飲み比べができるというのは、すごくいいことだなと感じました。全体的な活気をみて、「コーヒーがここまで成熟してきたんだな」というのがとても感動的でしたね。
狩野さん
私が思ったのは、同じ産地の生豆を使っていらっしゃる方もいっぱいいらっしゃるんですけども、焙煎士がそれぞれに味作りの志や方向性、ローストポイントが違うので、同じ豆でも全然違う味のように感じる。抽出器具や抽出方法、お湯の温度、豆の引き具合もそうですけど、そういうのを一度に体験できるので「飲み比べはとっても面白いな」というのと、さっき藤原さんも言っていましたけど、ちょっと感動しました。
コーヒーとともに発達してきた日本が誇る抽出機具
藤原さん
加えてですが、コーヒーがだんだん発達してきたことの一因には、抽出機具も発達してきたんですよね。私達が本を出した2002年頃、コーヒー店の店頭に並んでいたのはカリタとメリタしかなかったんですよ、そこにたまにコーノがあったぐらい。コーヒーポットも含めて、コーヒーの器具は味気なかった。でも最近では、コーヒー周りの道具に色々なデザインが増えてきて、ドリップする楽しみが器具の発達と共に豊かになってきています。豆も素晴らしくなってきたんですけど、その豆をいかに美味しく淹れるか、その道具の種類が増えてきたというのは、コーヒーが成熟してきた1つの理由だと思います。
狩野さん
とくにHARIOのV60は、いま世界中どこを見ても使われていますよね。数年前にパリのカフェを30軒以上まわったんですけど、スペシャルティコーヒーショップはドリップコーヒー淹れる時にかなりの確率で、HarioのV60を使っていました。とにかく日本の商品がパリのコーヒーショップとその物販コーナーを席巻していることにびっくりしました。スウェーデンのストックホルム、ドイツのベルリン、オーストラリアのメルボルンに行ったときもそうでしたね。

日本の商品、そしてプアオーバーでコーヒーを落とす日本の技術を世界中の人が参考にしたりお手本にしている、それはすごいことですし感慨深かったです。
大井
そういった抽出の技術や器具はこれからさらに日本が世界に発信していってほしいですね。さらにコーヒーのフェスティバルを通しても、抽出方法やコーヒーの味に興味を持つ人が増えればコーヒーに馴染みのある人が増えますし、コーヒーのある暮らしがもっとスタンダードになっていったらいいなと思いました。
次回のプレミアムコラムは池尻大橋コーヒータウンの仕掛人、Good People&Good Coffeeの池田誠さんとの対談をお届けします。どうぞお楽しみに!
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