美味しいコーヒーのために“栽培”を追求する、コーヒーハンター(Vol.1)
CafeSnap発案者の大井がお話をお伺いしているプレミアムコラム。第28回目にお迎えするのは、コーヒーハンターとしても有名なミカフェートの川島良彰さんです。
今回はCOFFEE COLLECTION 2017 Spring の特別企画として開催された川島さんとCafeSnap大井のトークイベントをレポートでご紹介。川島さんが18年もの歳月をかけて携わり、今年お披露目することになった新種のコーヒー“MAMO(マモ)”の開発裏話も後半でお聞きしました。
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川島良彰さん
ミカフェート代表取締役社長、コーヒー栽培技師。静岡県のコーヒー焙煎卸業に家に生まれ、コーヒーの香りに囲まれながら育つ。高校卒業後はエル サルバドル国立コーヒー研究所でコーヒーの栽培・精選技術を習得。大手コーヒー会社に就職後、ジャマイカ、ハワイ、インドネシアで農園開発のほか、マダガスカルで絶滅危惧種の発見と保全。レユニオン島では絶滅した品種を発見し、同島のコーヒー産業復活を果たすなど活躍。
2008年、株式会社ミカフェートを設立し、「Grand Cru Café」シリーズを発表。その後もグレード別のブランド展開をすることでコーヒーの新たな魅力を提案。40年以上にわたり、世界50か国2,500か所以上ものコーヒー農園を飛び回り、現在も“コーヒーハンター”として、コーヒー豆の買い付けはもちろん、1年の約1/3は海外で農園の指導や、まだ知られていないコーヒーの探求を続けている。
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- 本当に美味しいコーヒーを作るために“コーヒー栽培”を習得
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- 大井
- 今日はよろしくお願いいたします。川島さんは“コーヒーハンター”として大変有名でいらっしゃいますよね。コーヒーハンターと聞くと“豆の買い付けをする人”というイメージがあったのですが、川島さんはコーヒーの栽培や農園開発にも大きな力を注いでいるということに驚きました。コーヒーはどのように栽培されているのか、まずは基本的なところから教えていただけますか?
- 川島さん
- コーヒー豆はもともと “コーヒーチェリー”と呼ばれる果実の種子で、その樹は海抜500m ~ 2000mぐらいの土地で育ちます。「コーヒーを栽培する」と言っても苗を植えてから花が咲くまでには約2年。最初のうちは収穫量が少なく、たくさん実がなる成木になるまでは4~5年かかります。
コーヒーは品種によって違いますが、肥料を上げて、収穫量が落ちてきた枝をカットバックする(切る)など“若返り”をさせながら育てると100年以上生きるものもあるんですよ。
- 大井
- そんなに長生きするものもあるんですね!
- 川島さん
- それから品種によって特徴があるので、ティピカやブルボンのような原種は、一度ぐらい肥料をやらなかったとしても力強く生きます。しかし、今日お披露目する新品種の“MAMO(マモ)”は人工交配種なので、いわば温室育ち。肥料をあげて、丁寧に手入れをしてはじめて、美味しいコーヒーができる品種です。
- 大井
- コーヒー業界の方の中でも、栽培に関わっている方は少ないですよね。もともと 川島さんがコーヒー栽培を学びたいと思ったのはなぜでしょうか?
- 川島さん
- 実家が焙煎卸業者だったので、私も昔からコーヒーが好きでしたし、将来は父親の会社を継ぐつもりでした。父は商社から輸入したコーヒーを焙煎していたのですが、仕入れるところからコーヒー豆に関わるのではなく、もっと手前のところから関わることができたら、「私自身がお客さんに“本当に”飲んでほしいと思うコーヒーが作れる」と思ったんです。
ただ、私がそう思っていた1970年代は、ブラジルで日本人初のカップテイスターになった小室博昭さんが「コーヒーは豆によって味が違う」と、コーヒーの品質を“初めて”唱え始めた時期。逆に言うと、それまではブラジルのコーヒーといえば一種類の味とされていました。そんな中で、小室さんがカップテイスターとして注目されていたこともあり、コーヒー屋の二代目はカップテイスターになるのが“あるべき道”のような風潮もあったんです。
でもカップテイスターは収穫された豆をカッピングし評価して買い付けるのが仕事。私はそれでは物足りなかったんですね。だからコーヒーができる前の“栽培”から関わりたいと思いました。「焙煎屋がコーヒー栽培の勉強をしても意味がないだろう!」と親からは猛反対をされましたけどね(笑)
- 大井
- エル サルバドルに渡ったのは、18歳ですよね。その時にはもう、「コーヒー栽培の勉強のために海外に行こう」という想いが芽生えていたのでしょうか?
- 川島さん
- はい、まぁ、親から逃げたいというのもかなりありましたけど!(笑)
- 世界3大コーヒー研究所のあるエル サルバドルへ留学
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- 大井
- 留学されたエル サルバドルという国はどのように選ばれたのでしょうか?
- 川島さん
- おそらく中南米に行けばコーヒーの勉強できるだろうから「中南米に行きたい」とは思っていましたが、インターネットも普及していなかった時代なので、実は情報はあまりありませんでした。
一時は父が行ったことのあるメキシコに行く、という話もありました。ただ唯一、家族のつてがあったエル サルバドルの大使に相談に行った時に、「メキシコではなく、エル サルバドルにきなさい」と誘ってくれたんです。エル サルバドルを選んだことがいかに幸運だったかを知ることになったのは、後からのこと。実はエル サルバドルにはブラジル、コロンビアに続く“コーヒーの世界3大研究所”の一つがある国だったんです。
- 大井
- そうなんですね!それは素晴らしい偶然でしたね。
- 川島さん
- はい。エル サルバドルのレベルの高さを物語るのが生産量です。国の面積は四国より大きく、九州より小さいぐらいなのですが、私が訪れた1975年は生産量が世界第3位。1位は圧倒的な栽培面積のあるブラジルでした。ただ、エル サルバドルは国が小さいのに第3位。1ヘクタールでの収穫量はなんと世界1位。つまり、コーヒーをたくさん栽培する“技術”をもっていたということなんです。
- 大井
- 川島さんはエル サルバドルの国立コーヒー研究所ではどのようなことを学ばれたのでしょうか?
- 川島さん
- エル サルバドルの国立コーヒー研究所では、博士たちが栽培や害虫の研究を本部でしていて、支部の人々がその知識や技術を生産者に伝えて栽培に反映させていました。研究所はとても広くて、敷地内で車も走っていたほどです。
研究所の中には様々な“科”があって、私は例えば病気の科で3ヵ月。それが終わったら次は害虫の科に移って3ヵ月。と、徹底的にマンツーマンで教えてもらったので、コーヒーの栽培を勉強するのに本当に恵まれた環境でした。
- 環境に適したコーヒーを選び、育てることが、美味しいコーヒーを作る秘訣
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- 大井
- そういった勉強を経て、川島さんは美味しいコーヒーを作る上で大事なことは何だと思われましたか?
- 川島さん
- 研究所では、科ごとのテーマにフォーカスして勉強していたので、その時の学びが活きてくるのはUCCで農園開発を任されたときでしたが、やはり一番大事なことは“環境に適したコーヒーの品種を選び、育てること”ですね。
コーヒーは品種ごとに、好む土壌、気温、雨量、日照などがあります。それぞれの品種がどんな環境に適しているのかは分かっていて、それに合わないものを植えても美味しくはなりません。
最近、コーヒー好きの間では“ゲイシャ種”が有名ですが、ゲイシャ種は気難しい品種で、環境をとても選びます。雨が多くて、風がないところで良く育つという特徴がありながら、ゲイシャが世界的に有名になったことで、今ではどの国のどの農園でも植えていて、中には環境にあっていないところで育てている場合もあります。それを知らないまま高価な値段で買っている企業もあるので、このままいくと日本だけでなく世界中でクオリティと値段のバランスが崩れ、いつか“ゲイシャ神話”がなくなってしまうのではと危惧しています。
- 大井
- なるほど。たしかにゲイシャ種といえば、最高品質のコーヒーというイメージがありますが、品質が見合っていないものが世の中に出回ると、その印象や価値が下がってしまう可能性があるということですね。
- この続きはVol.2の「いよいよお披露目、世界初披露の新品種“MAMO”の開発秘話」で!次回の更新は5月10日(水)です!どうぞお楽しみに!
- Photo : Rina Amagaya
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