西谷さんが考える“良質なサービス”とは(Vol.5)
COFFEEHOUSE NISHIYAの西谷さんにお話を伺っているプレミアムコラム。最終回を迎える今回は、数多くのお客様や同業者が称賛し見惚れる西谷さんの“接客・サービス”について。 「何も感じさせないことが本当のサービス」「いい仕事は、悪い仕事をすべて排除すること」と語る西谷さん。その意味とは?
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- 何も感じさせないことが本当のサービス
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- 大井
- カフェ好きの方々から、西谷さんといえば、「接客やサービスが素晴らしい」と、聞きますが、お客さんをよく見られて、それぞれのリズムに合わせて提供しているからなんですね。
- 西谷さん
- なぜか「サービスといったら西谷さん」とか言ってもらえるけど、紐解いていくと実は僕はなにもしてないんですよ。
- 大井
- どういう意味ですか?
- 西谷さん
- いや、本当に。深い話になってしまうんですけど、本当は「いいサービスだ」って言われたくないんですよ。それは「よいサービス」として感じさせてしまっているわけだから。僕は余計なことを何もしていないだけなんです。例えば簡単な話でいうと……
- 西谷さん
- うちでも他のカフェでも、コーヒーと一緒に砂糖を持っていって砂糖の蓋を開けてくれることがありますよね。スタッフはお客さんの手間を省くために良かれと思ってやっいてるわけなんですが、うちのスタッフの場合も「あのお客さんが砂糖使うか知ってるの?」と聞くと「知らないです」という返事。「じゃあ、そのお客さんを観察してごらん」と見ていると、お客さんは砂糖を使わずに逆に蓋を閉めてくれるんですよ。それだったら何もしなきゃいいじゃないですか。
- 西谷さん
- 他にも例えば、カウンターでお話しているお客さんなら、話をしているうちにその方が右利きか左利きかくらいはわかる。もし右利きなら、ドリンクは体の右半身寄りに置いてあげると取りやすいですけど、これを左側に出されたらどうしますか?
- 大井
- なんとなく右側に移動しますね。
- 西谷さん
- そう。お客さんが少しずつ自分の取りやすい位置に移動させるんですよ。だから、それを自分も把握しておいて、そのお客さんが来た時は利き手側に置くようにする。あとは、スタンディングだと、背の高さや手の長さによっても変わりますし、背の高いドリンクを手前に置くと取りにくくなるので、体から少し離れたところに置きます。
- 大井
- 確かに、そうですね。近すぎますもんね。
- 西谷さん
- これが僕の目指す“何も感じさせないいいサービス”なんです。至って、当たり前のことをしているだけですよね。みんなが言ってくれている「いいサービス」というのは、パキパキやっているような仕事ぶりで、僕がやりたいのは、“サービスの本質”。良質なサービスというのは、“お客さんに感じさせないもの”だと思っています。
- 大井
- 目に見えるものではないんですね。
- 西谷さん
- 本当は地道なものなんです。
- 大井
- それは西谷さんにとって「当たり前のことをきっちりやる」ことなのかもしれないですけど、お客さんに喜んでもらうための気遣いや優しさが濃縮されているから、それが“サービス”として伝わっているのかなと思いますね。
- いい仕事は、悪い仕事をすべて排除すること
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- 西谷さん
- ちょっと訂正させてもらうと、「喜んでもらおう」と思っている仕事はだめなんです。「マジで喜んでもらおう、楽しんでもらおう」なんて一度も思ったことないです。もっと言うと「美味しいものを作ろう」なんて思ったこともないし、さらに言うと、「人に好かれよう」なんてことも一度も思ったことないです。
すべて逆転の発想なんですけど、“いい仕事というのは悪い仕事をすべて排除すること”なんですよ。すごく分かりやすく言うと、人に好かれようと思ったら、喜んでもらうとか楽しんでもらうとか、“好かれる努力”をするじゃないですか。僕はそうじゃなくて、“好かれるということは、嫌われないこと”だと思っているんです。
だから、僕がやっている仕事は、いい仕事ではなくて、悪い仕事をすべて排除しているんです。例えば挨拶も「おはようございます!」なんて大声で言う必要ないけど、すごく暗く「おはようございます」って言われたら嫌。ネクタイが曲がっていたらだらしないから、きっちりしめる。でも良く見せようと思っているわけではないんです。最高の振る舞いと最低の振る舞いに差があるといけないと思っているので、最低と最高は限りなく一線上にあるような仕事を目指しています。
- 大井
- つまり、西谷さんは「人が嫌がることはなんだろう」ということを徹底的に洗い出して、理解されているんですね。
- 西谷さん
- もちろん。だからいろんなお店に行きます。自分が他の店で嫌な思いをすると「人のふりみて」じゃないけど、逆に「良かったな」と思います。一つそこで学べたと思えば何も嫌じゃないですね。サービスのヒントや気づきは色々なところに転がっているものです。
- 大井
- 「人が嫌がることを徹底的に排除する」というのは西谷さんのお仕事だけでなく、他の職業でも大事なこと思いますね。
- カフェはオシャレを磨いてくれる場所
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- 大井
- 最後にコラムにご登場いただいているみなさんに質問させていただいているんですが「あなたにとってのカフェとは」を教えていただけますか?
- 西谷さん
- 自分がバリスタになる前まではカフェに行くとテンションが上がっていたし、昔から好きでしたね。カフェってオシャレじゃないんですか。自分をオシャレにしてくれる場所なんですよね。
というのも、僕は洋服がすごく好きで、洋服を買うために仕事してるようなものです。(笑)あのレストランに行くためにこのジャケットを買うとか、このコートを羽織ってあのバーに行きたいとか。僕はファッションと外食が直結していています。カフェはオシャレを磨いてくれる所。自分の店も、「なんかちょっと西谷さんのところ行くからオシャレして行こう」となってくれたら嬉しいですね。
さらに言うと、カフェは社会勉強ができる社交の場でもありますよね。いまでも、週に1回、80代のおじいちゃんがスタンディングで来てくれるんですが、その人はイタリアの旅行が大好きだからバンコに立ち続けていて、その隣には大学生が立っていたりする。歳の差、約60歳ですよ。カフェは年齢を超えて交流ができる社会勉強ができる場所でもありますね。
- 大井
- そうですね。それがカフェの大きな魅力ですね。わかりました、今日は貴重なお話をありがとうございました。
- 西谷さん
- ありがとうございました。
- 次回、9月23日(金)からのプレミアムコラムはONIBUS COFFEEの坂尾篤史さんの登場です!どうぞお楽しみに!
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