いま求められるバリスタの“プロフェッショナリズム”(Vol.3)
お店をオープンする前に、バリスタのトレーニングラボを始めたUNLIMITED COFFEE BARのオーナー、松原さんと平井さん。今回はお二人に“バリスタの育成に力を注ぐ理由”や“いま求められている、バリスタのプロフェッショナリズム”について伺いました。
そして、トレーナーを長年続けているお二人だからこそ聞きたかった「バリスタにセンスは必要ですか?」という質問。その答えとは?
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- バリスタの育成に力を注ぐ理由
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- 大井
- UNLIMITED COFFEE BARのオープンは2015年ですが、2012年からおふたりはバリスタのトレーニングラボを始められていますよね。トレーニングラボを先に始めたのはなぜですか?
- 松原さん
- バリスタの職業性を確立するためです。いま日本でバリスタは、まだ職業として認識されていないように感じます。例えばシェフやパティシエを目指す方には国家資格があって、国が認めた職業として位置づけられていますが、バリスタは国家資格がなく職業的知名度もこれからだと思います。
今日本はコーヒーブームが起きていますが、文化として根付かせていくためには、「お客様に接するバリスタがちゃんと職業として継続できないといけない」と思っています。
そう考えたとき、自分たちがただお店をやるだけでは自分たちが出会ったお客様にしか情報を伝えられないので、トレーニングラボを通じて今バリスタをしている人に最新の技術や情報、接客、コーヒーの素晴らしさを教えて、それが日本全国の様々な場所でお客様に伝わっていくことでバリスタの職業を確立できたらと考えています。
- 大井
- 日本で今バリスタのスクールは多くあるのでしょうか。
- 松原さん
- 日本では全然ありませんね。海外ではたくさんあって、お金を払ってトレーニングを受け、自分の技術が身についてからマシンを買ってお店をスタートします。それが本来のあるべき姿のはずですが、以前私がエスプレッソマシンの営業をしていた時は、「マシンを買えば次の日から美味しいコーヒーが淹れられる」と思っている方が結構多くて。
私はマシンの営業担当でしたけど、オープン前に「一日教えに来てください」とよく言われていました。もちろん教えることはできましたけど、一日教えただけでは何もできないですよね。
なんでこんな状況なのかを考えていた時に「学べる場所がないからだ」というところにたどり着いて、そうであれば「自分たちで学べる場所を作ろう」とスタートしたのがトレーニングラボを始めた本当の理由です。
- 大井
- 今トレーニングラボに通われている方はバリスタの方が多いんでしょうか?
- 平井さん
- 様々ですね。仕事にしてらっしゃる方もいますし、カフェ開業準備の為にトレーニングを受けにいらしている方、コーヒーが本当に好きで勉強したいという会社員の方などもいらっしゃっています。
- 努力がセンスに勝る、バリスタという仕事
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- 大井
- 時々コーヒー屋さんの方と話していると、例えば若手バリスタの話になった時に「彼はセンスあるよね」という言葉を聞くことがあるんですけど、トレーニングをされているお二人は“センス”についてはどう考えていますか?
- 平井さん
- かなり長く教えていますけど、「センスがあるな」と感じたことは正直ありません。というより、私たちは「努力もセンス」だと思っているんです。たくさん努力をすることができる人はすごく少ない。学び続けること、集中して理解しようとすること、それがセンスじゃなんじゃないかなと思います。本当に上手な人はとてもとても努力しています。
でも、確かによく「僕にセンスありますか」って聞かれるんですが、私は「センスなんて考え方自体がないから全然安心して。努力すればセンスがあるように見える人よりも絶対上にいけるから」って、言うんです。
- 松原さん
- だから“バリスタはいいな”と思うんですよね。もしかしたら他のジャンルだと、センスのある人が勝つ、センスのある人が努力している人より飛びぬけて活躍する場合があるかもしれないですけど、コーヒーに関しては継続して学び努力している人の方が強いです。これは味覚も経験もそうですね。だからこそ努力のしがいがある仕事だと思います。やれば誰でもうまくなる。
- 平井さん
- だから不器用な人の方が上手になったりするんですよ。めちゃくちゃ練習するんで。それは見ていてすごく嬉しいです。
- 大井
- バリスタの人が輝いて見えるのはきっとそのせいですね。こつこつと続けている努力がその人の魅力になっているように思います。
- 大井
- 松原さんが考える“理想のバリスタ”はどんな人ですか?
- 松原さん
- 講習の中でも伝えているんですが、私はただのバリスタじゃなくて、「スペシャルティコーヒーバリスタになってほしい」と言っています。まずはスペシャルティコーヒーという素材のポテンシャルを生かして美味しいドリンクを作る、まずはこれが基本。
そして接客ですね。コーヒーは飲食の一部なので、カスタマーサービス、ホスピタリティ含めてしっかりプロとしてできることが大事です。それから職業人としてのプロですので、職業価値を維持している立ち居振る舞いや言動、所作、お客様への接し方ができることも重要ですね。
- 大井
- 平井さんはいかがですか?
- 平井さん
- バリスタの仕事は人対人。私達も「コーヒーを飲みに行こう」と思った時は、「あのバリスタに会いに行こう」という意味合いも含んでいると思うんです。だからコミュニケーションが上手なことがバリスタとして必要ですね。
それからバリスタは基本的に学び続けないといけない。生豆のクオリティーも年々向上してますし、技術も4、5年前より進化していきます。もっともっと美味しいコーヒーを作るにはどうしたらいいのか、常に学んでいるバリスタが私達の中で理想のバリスタだと思っています。
- 大井
- 最近はバリスタになりたいという人も多くいます。どのような人がバリスタに向いていると思いますか?
- 松原さん
- “学び続けたい”という姿勢、意欲、熱意があることが大前提ですね。
- 平井さん
- あとは、“誠実さ”ですね。それはどの仕事にも必要だと思いますが。例えばレストランなら野菜を仕込む人がいて、ソース作る人がいて、調理する人がいてと、セクションごとに分かれていますが、コーヒーは全て自分でやるので、忙しくても「これでいいや」とならずに、常に自分を厳しい目で見て、誠実にお客様と向き合っていられるかが、バリスタになる上で非常に大事だと思います。
- 松原さん
- 人とコミュニケ-ション取ったり、いろいろ伝えるのが好きな人もすごく向いていると思います。バリスタはコーヒーを作る職人ですが、通常のモノづくりの職人さんとは違って、自分で作ったコーヒーを直接渡す立場にあります。
昔は、エスプレッソマシンも見えない場所にあって、素早く作る技術があればバリスタとして生きていけたかもしれないですが、今はお客さまに色々説明をして、接客をして、伝えながらコーヒーを作るというスタイル。その流れは、今後もっともっと加速していくと思います。だから人に伝えることが好きな人はバリスタに向いていますし、ぜひそういう人に業界に入ってもらって、一緒にスペシャルティコーヒーを広めていきたいですね。
- この続きは、Vol.4の「バリスタチャンピオンシップが開催される本当の理由」で!次回は11月15日(火)公開です。どうぞお楽しみに!
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