バリスタチャンピオンシップが開催される本当の理由 (Vol.4)
日本、そして世界のバリスタチャンピオンシップの審査員をされているUNLIMITED COFFEE BARの松原さんと平井さん。大会はどんな目的で開催され、何を審査しているのか、バリスタチャンピオンシップの基礎知識を直々に教えていただきました。
緊張感で包まれるその舞台に挑戦することでバリスタが得られることとは……?
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- お手本となる“プロのバリスタ”を決める
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- 大井
- ここからは、お二人が審査員をされているバリスタチャンピオンシップについて伺います。大会の基本的なルールは、エスプレッソとミルクビバレッジ(エスプレッソとミルクを使ったドリンク)とシグニチャドリンク(エスプレッソを使った創作ドリンク)の3種類を、4人のジャッジにプレゼンテーションをしながら15分で作るというものですよね。そもそも、この大会はなぜ開かれるようになったのでしょうか?
- 松原さん
- バリスタの職業性の向上のためです。日本ではバリスタの職業性はまだあまり高くありません。その職業性の地位を確立するためにもバリスタチャンピオンシップを通して「プロのバリスタとは何か」というお手本を示すのが大きな目的としてあります。もうひとつはスペシャルティコーヒーを広めていくことですね。
- 大井
- なるほど。大会が開かれることで個人の技術も磨かれますし、大会に出る人の間で情報交換があったりと業界も活性化されますよね。
- 大井
- おふたりは審査員という立場ですが、大会ではどんなことを審査されているのでしょうか?素人からすると「コーヒーが美味しければそれでいいのでは」と思ってしまいますが。
- 松原さん
- 審査は大きく分けて2種類あります。ひとつは味覚を評価していく“センサリージャッジ”。これはおっしゃったとおり“美味しさ”を評価しています。甘さ・苦味・酸味のバランスや、バリスタがコーヒーのことを説明するときに言ったフレーバー(味わい)がちゃんと出ているか。さらに大会で審査員はお客さまとして接客を受けますので、カスタマーサービスやプレゼンテーションのスキルも評価しています。
もうひとつは“テクニカルジャッジ”で、技術面を審査するジャッジです。これはバリスタが一貫した動きでエスプレッソの準備やドリンクの準備、ワークフローと言って動きがスムーズか、また作業スペースであるステーションの管理ができているかを見ています。例えば大会では“エスプレッソを抽出するときに、粉をどれくらい無駄こぼししているか”も見ているんですよ。
- 平井さん
- 今“無駄こぼし”について出ましたけども、「粉をたくさんこぼしてはいけない」というのは、お店だった場合、その粉はお店のロス(損失)になるんですよね。経営者の立場からすると、バリスタがロスをした分は一年間の単位で考えると非常にもったいないですし、コストコントロールがしにくくなります。
- 松原さん
- つまりバリスタチャンピオンシップは、美味しく作るプロセスと、お店で必要なバリスタとしてのスキルという、“お店で必要なこと”を評価しているんです。大会にでることでバリスタ自信のスキルアップに繋がるので、ぜひ多くのバリスタに大会に出てチャレンジしてほしいですね。
- 緊張やプレッシャーを乗り越えた先に、身につく実力がある
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- 平井さん
- 実際、大会にでることをリスキーに感じる人もいると思うんですね。自分が上位になれるかはわからないですし、自分自身をテストするみたいで非常に辛いと思います。でも自分に負荷をかけてやる人はすごく強い。目標をもって自分の技術を高めていきたいと思うから努力を積み重ねられるということもあると思います。
- 大井
- 実は、今年9月のジャパンバリスタチャンピオンシップの決勝でUNLIMITED COFFEE BARの山下淳美さんが競技されているのを見ていたんですけど、会場は張り詰めた緊張感があって、見ている私でさえも息がすごくしづらかったです。
- 松原さん
- 本人は準決勝さえ初めてだったので、すごく緊張していたと思います。
- 大井
- あの緊張感を乗り越えていくのは、並大抵のことではないですね。
- 平井さん
- そうですね。ミスをしちゃいけないし、話さなくてはいけないし、手も動かさなくてはいけない。ものすごい負荷だと思います。
- 松原さん
- でもあの決勝を体験しているからこそ、お客様の目の前で作る時もミスをしないんです。
- 大井
- なるほど。自分に負荷をかけて積み上げた練習や競技の経験は、すべてバリスタとしての実力になるんですね。
- 大井
- お二人が大会で審査をするときに大事にされているポイントがあれば教えていただけますか?
- 松原さん
- チャンピオンは業界のお手本になる人が相応しいと考えていますので、点数に反映するかは別として、この中で誰がチャンピオンになった時に、「バリスタの見本として相応しいか」、「スペシャルティコーヒー普及するために活躍してくれるか」、というのはやっぱり頭をよぎりますね。
- 大井
- 平井さんはいかがですか?
- 平井さん
- 今、松原が言った通り、職業性というのもそうですし、日々の努力を見ています。大会は切羽詰まる状況ですし、努力を積み上げてきているかどうかは、15分の間に出てきますので。
- 松原さん
- 実は、大会のルールは誰でも見られるようになっていて、そこに“チャンピオンとしてどういう人が相応しいか”という事が書いてあります。我々が求めるチャンピオンは、謙虚で誠実で他人を尊敬してお手本になるべき人……など記載されているので、ルール見るだけでも勉強になりますよ。日本語版もSCAJ(Specialty Coffee Association of Japan)のHPからダウンロードできますのでぜひ見てみてください。
- この続きは、Vol.5の「松原さんと平井さんが考える、コーヒー業界の未来」で!次回は11月18日(金)公開です。どうぞお楽しみに!
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