時を刻む時計が教えてくれたこと(Vol.3)
シュヴァルツヴァルトカフェの芹澤さんにお話をお伺いしているプレミアムコラム。Vol.3のテーマは「時を刻む時計が教えてくれたこと」です。販売を始めた頃は、鳩時計の修理を受け付けていなかったという芹澤さん。とあるお客様との出会いがきっかけで、大きく気持ちを動かされることになりました。そのエピソードとは……。
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- お客様に教えてもらった“修理”の大切さ
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- 大井
- 芹澤さんはもともと鳩時計の販売から始められて、今は修理もされていますよね。修理を始めたのはなぜですか?
- 芹澤さん
- 販売を始めた頃は鳩時計の修理の事はあまり考えていなくて、ただその考えを改めさせられたお客様との出会いがあったんです。
鳩時計の販売を始めてしばらくすると、「古い鳩時計持っているんですけど直せませんか?」という電話がよくかかってくるようになったんです。でも、当時の自分は他店の時計を修理する技術もなかったし、古い物だと修理する部品も工具もなかったので「直すことができ」とお断りしていました。鳩時計の修理の問い合わせはその当時、販売に関する問い合わせよりも多くて、修理をお断りするのが日常のようになってしまっていたんです。
そんな中、ご高齢の男性のお客様から頂いたお電話があって、これがまた修理の問い合わせ。今まで同様に他店の時計は部品が無いのでうちでは修理できないことを伝えたら、そのお客様が電話越しに「もう何年も色々なところを調べては聞いてみたけれど、誰も修理してくれないから、この時計はもう捨てちゃうしかないのかな……」とぼそっと言ったんです。
その時に「はっ」として。「鳩時計を直せる人って日本にそんなにいないのか」、「捨てちゃうとなると責任重大だ」、「せっかく職人さんが作ったものだし……どうしよう」、と色んな事が瞬時に頭に浮かんできて思わず「ちょっと待ってください!とにかく一度持ってきてください!」と言ってしまったんです。
- 芹澤さん
- 後日その方がご来店され、二人で古い時計の中を覗きこんでみたんですけど、色々なところが取れているし、外れているし、ほこりまみれ。もはやどうにも手をつけられない状態でした。ただ、翌月にドイツに買い付けに行く予定があったので、「しばらくお預かりさせてください」と、お客様には内緒でその時計を箱につめて手持ちでドイツに持って行ったんです。
着いてすぐ時計工房に行き、職人さんに「古い鳩時計なんだけど、たぶんこれは直らないよね?」と言ったら、お互い英語での会話だったせいもあって少し失礼な感じで伝わってしまったんだと思うんですけど、その職人さんが「ドイツの鳩時計で直せないものは1つもない。そこに置いてけ。」と怒ってしまって。
その時は1週間だけの短い滞在でしたが、帰国する日にもう一度顔を出したら、その鳩時計は見事に修復されていて、とにかく完璧な状態だったんです。嬉しくなって、その時計をまた抱えて日本に帰国しました。
- 鳩時計を修理することは家族の思い出を修理すること
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- 芹澤さん
- 日本に帰ってきてすぐお客様に連絡し、職人さんに言われた通りに設置して、時計をうごかしてみたら、オルゴールも鳩も元気に鳴ってくれました。「ああ、よかった」とお客様の方を見たら、なんとそのご高齢のお客様はハンカチを取り出して涙してらっしゃったんです。
その後、ゆっくりとお客様がお話してくださったのですが、時計は長年、奥様と共有の宝物だったそうで、お二人で出かけたヨーロッパ旅行の思い出が刻まれていたんだそうです。ただ動かなくなってしまってからもう何十年。奥様はずっと直してほしいと思われていたそうなのですが、その思いは叶わずに数年前に亡くなられてしまったと。そんなお話をお伺いした最後に「この鳩時計をもう一度鳴らしてくれて、ほんとにありがとう。」と言われて、私も泣いてしまいました。
- 大井
- 感動的ですね。
- 芹澤さん
- 自分が思っていた以上に、鳩時計にそのご家族の思い出が刻まれていることを知って、「鳩時計は可愛いから売るだけじゃだめなんだ。私は鳩時計屋として仕事の半分もしていなかった。修理できるものにこそ価値があるんだ」と気づかされました。
その日から、私は独学で鳩時計の修復を学び始めました。「鳩時計の修理は物の修理ではあるけれど、お客様にとっては思い出の修理なんだ」と思って、今ではご依頼いただく度に、時間をかけて大切に修理させて頂いてます。
“大きなのっぽの古時計”だって歌になるくらいですからね。手作りの時計って動いてなくても飾っておきたいという方もいらっしゃるくらい、すごく愛着が湧くものなんですよ。
- この続きは、 5月10日(火)公開予定のVol.4「起業家としての姿勢とリスク管理術」で!どうぞお楽しみに!
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