Bean to Barチョコレートの魅力(Vol.2)
富ヶ谷にあるチョコレート専門店“Minimal”代表の山下さんと田淵さんにお話をお伺いしているプレミアムコラム。Vol.2は「Bean to Barチョコレートの魅力」。
最近よく聞く “Bean to Bar”の意味、 そして産地までカカオを仕入れに行くお二人が“どのように美味しいカカオを見極めているのか”を伺いました。
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- 収穫から製造までを一気通貫で行うBean to Bar
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- 大井
- Minimalはブランド名に- Bean to Bar Chocolate -という言葉も入っていますね。“Bean to Bar”はどういう意味ですか?
- 山下さん
- Beanはカカオ豆ですね。Toはなになにへという意味で、Barは板チョコのことです。つまり豆の選別・仕入れから最終的に板チョコにするまでのすべての工程を、一つの工房や工場で行う製造スタイルのことをBean to Barと言います。
比較のために、一般的なチョコレートの話をさせていただくと、一般的にチョコレートは製造工程が大きく2つに分かれています。
まず、産地からカカオの豆を輸入して加工する一次加工メーカーがいて、そこが工場で大量にカカオ豆を加工し、クーベルチュールと言われる製菓の材料やチョコレート生地の状態にします。みなさんがご存じのお菓子屋さんやショコラティエはその一次加工メーカーからクーベルチュールを仕入れて商品へと二次加工します。
従来は、一次加工メーカー、二次加工メーカーを通して商品が作られていますが、そこを「一気通貫して全部自分たちでやりますよ」というのが“Bean to Bar”の新しいスタイルです。
- 美味しいカカオ豆の見極め方
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- 大井
- さきほどの話で、チョコレートはカカオ豆という素材が大事ということがわかりました。Minimalは豆の仕入れからされているということですが、豆はどのように選んでいるのですか?コーヒーだとカッピングなどがありますよね。カカオの場合はどのようにしているのでしょうか?
- 山下さん
- 正直にいうと判断基準がなくて難しいんです……。どういうことかというと、品質の良し悪しは生豆でわかりますが、味や香りになるとカカオはチョコレートにしてみるまで分からないことが多いんですよ。
- 大井
- そうなんですか!
- 山下さん
- はい。ただ、カカオは本当に色々な味があります。僕らはお客様が好きか嫌いかを判断できるくらい、それぞれのカカオの個性を表現したいと思っているので、味の特徴であるNUTTY、FRUITY、SAVORYという多様な味に表現することで、「カカオはこういう味がするんだ」とか、「こんな個性があるんだ」ということを伝えていけたらと思っています。
ただ、そんな中でも最近、実際農園に行きながら「僕らが美味しいカカオを選ぶ基準ってなんだろう」と考えたときに、2つほど決め手があります。それは……
- 山下さん
- 1つは “農園が生きているかどうか”。もう1つは“作っている人が本当にいいものを作りたいと思っているか”。この2つです。
1つめについては、カカオが作られている農園がイキイキしているかということ。大地が枯れていたり、手入れが適当にされている農園は乾ききっていて、樹の生命力がないんです。だからこそ逆に、よい農園は入った瞬間にわかります。「ここは生きてるな」って。あとカカオは直接、日光に当たってしまうとうまく生育できないケースが多いので、バナナの樹などのシェードになる樹木を近くに植えて陰を作る必要があったりと生態系が複雑。手入れの具合や管理がどれだけされているかどうかが、農園に行くとわかります。
もう1つは定性的なんですけど、僕らは農家さんの“顔”を見ています。残念ながらまだチョコレート消費国=先進国、原材料カカオ生産国=途上国ということが多いんですね。生産国で消費の文化はほとんどない。つまりチョコレートの味を知らないんです。生産者の中には、「ヨーロッパの人々がカカオを買ってくれるから先代から引き継いだ農園をやっている」という人も結構いて、そういう時は、僕たちがフライパンをもっていって、そこでチョコレートを作ってあげることもあります。
カカオは農作物なので出来は天候にもよりますし、毎回いいものが出てくるわけじゃない。それを理解したうえで、そこに向き合っている人が美味しいものを作りたいと思っているのか、一生懸命やっているのか、誇りをもってやっているのか、それを見ています。
- 山下さん
- 僕らは「いい豆を買えたらそれで終わり」という風にはしたくないですし、30年、40年と長い時間をともにして一緒に努力をしていくことでもっと美味しいカカオができると考えています。農園に直接行く醍醐味は、まさにここ。農園の状態や生産者の顔が見えると「ここはたぶん一生パートナーになりうるな」とか「こういう人たちと一緒に作っていったらまだ世の中にない新しいチョコレートの提案ができるんじゃないか」というイメージが沸くんですよね。
- 大井
- 愛を持って作っている生産者のカカオはきっとどんどん良くなっていくでしょうし、Minimalさんとしてもそれを引き継いで美味しいチョコレートを作れますもんね。
- 山下さん
- そうですね。だから面白いですよ、ほんとに。
- 田淵さん
- 僕たちはまだスタートしたばかりということもあって、今、明確な答えが見えているわけではありません。色々なことが見えてくるまでにまず5年くらいはかかるだろうと思っているんですね。
チョコレートを作る工程の中で、重要なことのひとつに、現地の“発酵”というプロセスがあるのですが、それ次第でカカオの味はかなり変わります。
僕らは、生産者が作ってくれたカカオの良さをうまく引き継いで、素材のポテンシャルをどう出しきるかを模索しています。「製法は知っているけど、カカオ豆のことは知らない」となると、どんなに工夫しようとポテンシャルは引き出せないので、色々な農園の豆と付き合うことはもちろん大事なんですが、1つの産地、1つの農家さんの豆とずっとつきあっていくことで、豆に対する理解が深まって、さらに美味しいものが提供できるようになると思っています。そういう意味でも「人」。農園に行って、誰が一生付き合えるかということを見ているかという感じですね。
- 大井
- Minimalさんのチョコレートは開けてみたときに大小、太い細いなど様々なブロックがあって、すごくいいなと思ったんですが、どうしてあのようなデザインになったのですか?
- この続きは、Vol.3の「板チョコレートのデザインに込めた想い」で!次回は、 5月27日(金)公開予定です。どうぞお楽しみに!
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